2023年06月16日

2023年 第23週
(令和5年6月5日~令和5年6月11日)

【今週の注目疾患】
■破傷風
 2023 年第 23 週に県内医療機関から破傷風の報告が 1 例あり、本年の報告数は 5 例となった。
 2014 年~2023 年第 23 週に県内では 56 例の破傷風の報告があり、男性 34 例(61%)、女性 22例(39%)であった。
年代別では 70 代が 23 例(41%)、次いで 60 代が 11 例(20%)、80 代が 7例(13%)と 60 代以上の患者が全体の 77%を占めたほか、30 代が 5 例(9%)であった。

 感染経路別(重複あり)では、創傷感染(転倒による擦過傷、動物の咬傷等)が 41 例(73%)で最も多い。
次いで、その他(不明、明らかな創傷がない等)が 12 例(21%)、針等の鋭利なものの刺入による感染(竹や枝、釘が刺さった等)が 6 例(11%)であった。
 予防接種歴ありと記載のあった患者は 9 例(16%)で、年代は 30 代が 4 例、60 代が 3 例、10代及び 80 代が各 1 例であり、接種時期は診断の約 15 年前が 2 例、推定感染日から発症日までの期間(創傷処置としての接種と思料される)が 1 例、接種時期の記載なし 6 例であった。
また、予防接種歴なしと記載のあった者が10例(18%)、予防接種歴不明もしくは記載なしが37例(66%)であった。
なお、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(沈降 DPT)が定期接種となった 1968(昭和 43)年以降に出生した患者(現在 55 歳以下)の報告は 10 例(18%)あり、そのうち予防接種歴ありと記載のあった者は 5 例(接種時期は診断の約 15年前が 1 例、接種時期の記載なし 4 例)であったほか、予防接種歴不明もしくは記載なしが 5 例であった。
 破傷風は、破傷風菌が産生する神経毒素による神経疾患である。
破傷風菌が作る毒素は抑制性神経伝達を減少させ、神経を過活動の状態にすることで筋肉の痙攣やこわばりを起こす 1)。
 破傷風菌は芽胞の状態で土壌などの環境に広く分布する。
破傷風菌の芽胞は創傷から侵入し、嫌気状態の創傷部で発芽・増殖し、毒素を産生する。
人から人へ感染することはない 1)。
 潜伏期間は 3~21 日であり、平均は 10 日である。
創傷部位が中枢神経系から近ければ、潜伏期間が短く、より重篤な症状、合併症、死亡の可能性が高くなる傾向がある 1)。
 破傷風は自然感染では免疫が誘導されないため、ワクチンによる発症予防が非常に重要である。
現在、定期接種第 1 期(生後 2~90 か月に至るまでの間)に沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(沈降 DPT-IPV、四種混合ワクチン)を 4 回接種し、第 2 期(11~12歳)に沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド(沈降 DT、二種混合ワクチン)を 1 回接種する。
 1968(昭和 43)年の破傷風ワクチン定期接種開始以降、小児における破傷風患者は激減し、患者の多くは定期接種開始前に出生した者である。
しかし、第 2 期接種を忘れてしまうなど定期予防接種のスケジュールに沿ったワクチン接種を受けていない場合、10~20 代においても発症する可能性がある 2)3)。

■引用:参考
1)国立感染症研究所:破傷風とは
>>詳細はこちら
2)国立感染症研究所:破傷風の小児例
>>詳細はこちら
3)国立感染症研究所:2期の DT が未接種であった 10 代の破傷風発症事例
>>詳細はこちら

■ヘルパンギーナ
 2023 年第 23 週に県内の小児科定点医療機関から報告されたヘルパンギーナの定点当たり報告数は、7 週連続で増加し、3.83(人)であった。
第 23 週に報告された患者 490 例のうち、年齢別では 1 歳が最も多く 109 例(22%)、次いで 2 歳及び 4 歳が各 92 例(各19%)であった。
発生報告が多かった地域は、習志野 16.8(人)、船橋市 5.0(人)、千葉市 4.4(人)保健所管内であった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以降(2020 年以降)、ヘルパンギーナの定点当たり報告数は低調に推移していたが、本年は例年より早く定点当たり報告数が増加している。

 ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性の発疹を特徴とした急性ウイルス性咽頭炎である。
乳幼児を中心に夏季に流行し、いわゆる夏風邪の代表的疾患の 1 つである。
エンテロウイルス(コクサッキーウイルス A 群 2,3,4,5,6,10、コクサッキーウイルス B 群、エコーウイルスなど)が原因ウイルスとなる 1)。
 ヘルパンギーナの臨床症状は、2~4 日の潜伏期を経て、突然の発熱に続いて咽頭痛が出現し、咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内に直径 1~2mm、場合により大きいものでは 5mm ほどの紅暈に囲まれた小水疱が出現する。
やがて小水疱は破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴う。
発熱については 2~4 日間程度で解熱し、それに遅れて粘膜疹も消失する。
基本的に予後は良好であるが、無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがあり、発熱以外に頭痛や嘔吐等の症状や、心不全徴候の出現に注意が必要である 1)。
 エンテロウイルスの宿主は人だけであり、感染経路は接触感染を含む糞口感染と飛沫感染である。
急性期に最もウイルスが排泄され感染力が強いが、回復後にも 2~4 週間にわたり便からウイルスが検出されることがある。
ワクチンはなく、予防には接触予防策、飛沫予防策が重要である。
手洗いの励行は重要で、特に排便後・排泄物の処理後の流水と石けんによる手洗いを徹底する 1)。

■引用・参考
1)国立感染症研究所:ヘルパンギーナとは
>>詳細はこちら

【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況】
 2023 年第 23 週の県全体の定点当たり報告数は、前週の 6.66 人から減少し 6.46 人であった。
県内 16 保健所すべての管内から患者報告があった。

【千葉県感染症情報センターより参照】
(令和5(2023)年6月14日更新)